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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
今まで書いたもの一覧



連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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サイモン・シンさんの受賞
数学セミナー2015-1以前,このブログの

  ・ サイモン・シンさんの『フェルマーの最終定理』
  ・ ワイルズさんを引き込んだもの

で,サイモン・シンさんの著作『フェルマーの最終定理』を紹介しました.この本は25ヵ国語に訳されるなど,世界的なベストセラーになったのですが,サイモン・シンさんはその後も持ち前の取材力を生かし,優れた科学の解説書を何冊も執筆しています.これが評価され,2016年全米数学会賞の一つである,JPBM Communications Awards を受賞しました.

最近ジュンク堂で見つけたのですが,数学セミナー2015-1去年の5月に,最新作

『数学者たちの楽園―「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち―』

の翻訳が出版されていました.これもそうとう面白そうです.アメリカで長年人気のアニメ「ザ・シンプソンズ」には,実はマニアックな数学のユーモアがいっぱい隠されてるらしい!?です.何ということでしょうか.興味のあるかたはぜひ.(アマゾンのページ新潮社のページ


日記 | 08:35:42 | トラックバック(0) | コメント(0)
『数学セミナー』2016年2月号
数学セミナー2015-1以前,月刊誌『数学セミナー』の国際数学者会議特集号で,マンジュール・バルガバ(Manjul Bhargava)さんのフィールズ賞業績紹介を書きました.今回,『数学セミナー』の2月号に再び寄稿する縁がありました.

平方剰余の相互法則と呼ばれる法則があります.2月号はこの法則の特集号です.私の記事も特集のひとつで,「平方剰余の相互法則とp進数」というタイトルで書きました.

『数学セミナー』 2016年2月号の目次

平方剰余の相互法則は,素数の間の論理的・数学的な関係を示すものです.これを経験的に発見したのはオイラー(1707-1783)ですが,ガウス(1777-1855)の詳細な研究によって,その底知れないポテンシャルが明らかになりました.素数の持つこのような秩序を究明することが,現在の整数論で一つの大きな主題になっています.

ガウスは平方剰余の相互法則を「整数論の基本定理」と呼んだそうです.基本定理であることが少しでもお伝えできれば,と思いながら記事を書きました.よろしければお読みください.

日記 | 19:51:06 | トラックバック(0) | コメント(0)
五感を使う数学
数学ができるようになりたければ,五感を使って数学をすることが大切かな,と思っています.

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上達したいと思う限り,数学以外の科目でも,スポーツでも音楽でも絵でも,なんでも同じだと思います.例えばAさんがテニスにうまくなりたいと考えているとしましょう.Aさんは運良く,教えるのが上手なコーチに習っているとします.Aさんはそのコーチから,グリップの握り方や打つ時の姿勢,コート内の無駄のない走り方など,いろいろなことを教わります.上達するためには,コーチの言うことをよく聞き,体得できるように努力することが大切です.

しかしここで,もしAさんが本当に上達することに全神経を向けているなら,Aさんは必ずや自分なりの工夫もしてみるはずではないでしょうか.コーチはこう言ったけど,ちょっと持ち方を変えてみるとどうだろう?足の出し方を少し変えてはどうだろう?---このような試みは,多くの場合失敗に終わるでしょう.基本的には,経験豊富なコーチの方が正しいのは当然です.しかし,そのようなたくさんの試行錯誤の中から,ときどきAさんの身体にはよりよくフィットする動きが見つかるかも知れません.究極的には,一人ひとり,腕の長さも違えば,筋肉のつき方も違う,視力だって反射神経だって違います.人のやり方の字義通り完全なコピーなら,その人とは身体が違う以上,Aさんにとってベストの動きであるというのは望みようのないことです.コーチがどれほど教え上手であっても,Aさんの身体を持ってるのではない以上,Aさんにとってピッタリの動きは,最後の部分はAさんが見つけ出すしかありません.

そんな工夫のきっかけをたくさん得て,様々な工夫を凝らすためには何が必要でしょう?とっぷりとテニスの世界に意識を浸すのはもちろんですが,その上で,自分の感性を鋭敏にし,上達のきっかけは逃さないぞというぐらいの気持ちを持つことが大切ではないでしょうか.---これを一言で言い表すと,「能動的に学ぶ」ということになるのかも知れません.

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数学の理解についてもまた,一人ひとり脳は異なるし,また人生にわたる認識や理解の積み重ねも多様で当然異なります.それならば,共通原則はあっても,本人に完全にピッタリ合う理解の仕方は最終的には本人が見つけ出すしかない部分があるはずだ,と思うのです.何より上達したいという情熱を持つこと,そして,上達の契機を逃さないよう自分の感性と神経を研ぎ澄ませること.ちょっとオーバーめの表現かもしれませんが,でも一方,何にでも当てはまるような実にありきたりな話でもあると思います.数学の理解も,そんな中から生まれるのではないでしょうか.

日記 | 11:46:29 | トラックバック(0) | コメント(0)
笹井さんの訃報
理研の笹井さんが亡くなられたそうです。あまりの悲劇に言葉を失いました。私はもちろん笹井さんにお会いしたこともありませんし、再生医療のことも何一つ知りません。でも、笹井さんが日本の、ひいては世界の科学界の宝のような方であったことは間違いないと思っています。私たち(科学者)は、このような出来事が再び起きることのないよう、足りない知恵を絞り、何ができるかを懸命に考えていかなければならないのだと思います。

ご冥福をお祈りします。

日記 | 04:54:04 | トラックバック(0) | コメント(0)
双子素数予想の進展
双子素数の問題でビックリの進展があって,数学者たちが大騒ぎしているというニュースです.
(日本語では朝日新聞デジタルに「双子素数予想」解決に光 古代ギリシャ時代からの難問という記事が出ました.)

双子素数予想と,ジャンさんの定理

双子素数とは,差が2である素数のペアのことです.例えば (3,5), (5,7), (11,13) など.もう少し先では,(101,103) や,(1019,1021)など.調べてみると,けっこうたくさんあります.ということで,次のことが長らく予想されていました.

双子素数予想:差が2となる素数のペアは無限に存在するだろう  (?)

...難しいです.この問題.ドーニモならないぐらい.シンジランナイグライ.現在見つかっている最大のペアは約20万桁にもなるそうですが,それも有限の話.この手の素数の無限を扱うのは,相当に難しい.このたび,イタン・ジャンさん(Yitang Zhang;漢字は张(ジャン)益唐(イタン),日本語読みすれば"ちょうえきとう"さんでしょうか)というアメリカ在住の中国人研究者の方が発表し,専門家の検証で正しさが確かめられたのは次の定理です.

ジャンさんの定理:差が7000万以下の素数のペアなら無限に存在する  (!)

差2は難しくても,差7000万以下なら大丈夫,そんな定理が証明されたのです.(論文はBounded gaps between primesというタイトルで,権威ある専門誌から出版されることが決まっています.)

定理の意味

7000万とはまた大きな数です.「7000万でよければそりゃあるだろう」「特に不思議な気がしないな..」「そんなのに意味があるの?」等と感じられるかもしれません.しかし,このジャンさんの定理に驚愕した数学者,歓喜に沸いた研究者がたくさんいたことは想像に難くないのです.この定理の意味するところを考えてみましょう.

整数全体のなかで素数が現れる割合は,数が大きくなるにつれ,だんだん低くなっていくことが証明されています.具体的には,N桁の数の中で,素数の割合はだいたい(2.3×N)分の1になることが証明されています.例えば3桁だと,2.3×3≒7 なので,3桁の整数900個のうち,だいたい1/7が素数,となります.実際には3桁の素数は143個,900/7は約128.ちょっと誤差はありますが,ポイントは,Nが大きいほど割合が低くなること.

3桁だったら1/7ですが,100兆桁だったらどうでしょうか.素数の割合は230兆分の1です.ランダムに数をピックアップしたとき,それが素数である確率は230兆分の1.それこそ,"砂漠の中から砂金を見つける"ような話です.7000万といえど,230兆から比べると100万分の1にも満たない数ですから,もはや素数の差は7000万以下であることの方がずっとずっと稀なのです.

100兆桁の数がどれほど巨大であっても,それは数学では有限です.問題の本質はあくまでも無限を見据えています.割合はこの先もっともっと,どこまでも低くなります.ジャンさんが証明したこと --- これまで素数の研究者たちが正しいと確信し,なんとか証明しようと歩みを重ねていたこと --- は,「全体としてはどんどんまばらになって間隔も広がるけれど,差が一定以下(今回は7000万以下)であるように,間隔の詰まった素数の組がどこまで先にいっても依然としてある」ということでした.

これまでのどんな研究も,素数の差を理論的に調べようとすると,証明できる間隔は,どうやってもゆっくりながら広がってしまっていました.ポイントを強調すれば,ついに,有史以来初めて,はっきりした定数で有限に抑えることが証明できたのです.こんな風に言った数学者がいたとか.「もともとの双子素数予想とたった3500万倍の差になったんだぜ.え,大きい?いやいや,そんなことはない.考えてもみてくれ,これまでは無限倍だったんだ.」

英語版ニュースへのリンク:
サイモンズ財団の記事 Unheralded Mathematician Bridges the Prime Gap
数学者 Jordan Ellenberg さんによる記事 The Beauty of Bounded Gaps

注:7000万という数字にも目がいきますが,この値は理論的に重要なわけではありません.とにかく有限であることが証明できて,「では具体的には」と言われたとき,簡単に計算できる値を一つあげたものです.

どうやって証明したの?

僕も証明を細部まで理解できているわけでは(全く)ないし,話すとどうしても専門的になります.無理を承知で,少しだけ雰囲気をお話してみたいと思います.

まずきっかけとなったのが,ゴールドストン-ピンツ-イルディリム (Goldstone-Pintz-Yildirim)の3氏によって発表された2005年(注:出版は2009年)の研究です.素数の差の研究はいろいろあった(エルデシュもここに名を残しています)のですが,双子素数問題との距離はなかなか埋まりませんでした.

GPY3氏の功績の核心は,これを『算術級数(=等差数列)中の素数定理』という,素数問題の中心に位置するテーマと結びつけ,その定理を強力に応用できることを示したこと.ごくごく簡単に言えば,もし素数の差がどこまでも広がっていくならば,等差数列中の素数の並びにヘンなことが起きる,ということでした.より具体的には,ボンビエリ-ヴィノグラードフの定理(=算術級数中の素数定理の平均版, 綴りはBombieri-Vinogradov)に結び付けて,先人の研究を大きくしのぐ定理を証明し,またボンビエリ-ヴィノグラードフの定理をある方向にごく僅かだけ(!)改良できれば,値はともかく何か有限値で抑えられることを示したのです.

研究者たちの間にどよめきが広がりました.ボンビエリ-ヴィノグラードフの定理は大切で,それを改良するのは個別の興味のとどまらない意義があります.実際,さまざまな応用や,いろいろな方向への改良が研究されていました.上記の「僅か」の意味は数式を使わないと説明しにくいのですが,ともかく,GPY3氏ご本人たちも論文に,「双子素数予想そのものはともかく,有限性の証明には,髪の毛の幅ほどまで(within a hair's breadth)にも近づいているのでは」と書いたほどでした.

もう一歩なんじゃないか,何とかうまい方法はないかと,あの手この手で,有名な研究者を含め相当の人が --あるときは一人で,またあるときはよってたかっての共同研究で --試みたそうです.時間の問題のようにも思われたその証明,結果はというと --- やはり,有限性を示すのはまだちょっと難しいのかもしれない --- そんな空気に落ち着きつつあったやも知れぬ今日この頃に,ジャンさんから発表があったというわけです.

ジャンさんの戦略はやはり,ボンビエリ-ヴィノグラードフの定理を改良するというものでした.公差の素因子があまり大きくない場合に限定して改良すれば,今回の証明には十分だという点に着目したものです.ジャンさんは,解析的整数論と呼ばれる分野で得られていた,これまでのさまざまな重要な成果(中にはヴェイユ予想-ドリーニの定理に帰するものもあります)を組み合わせ,この改良を成し遂げたようです.

これでは到底解説を尽くしたとは言えませんが,より詳しいことは,専門家の方による解説をご覧ください:
Emmanuel Kowalski さんブログの速報レポート Bounded gaps between primes!
Dan GoldstonさんのAIMへの寄稿 Zhang's Theorem on Bounded Gaps Between Primes

ジャンさんとは‥

定理を証明したジャンさんとジャンさんの研究について,どうしても一言二言,書かねばと思っています.だいぶ長くなったので,近々(!)改めます.

日記 | 00:59:16 | トラックバック(0) | コメント(0)
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