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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
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連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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秋入学の話のその後
*数学と関係ありませんが,以前の東大の秋入学検討のニュースについての続きです.東大が秋入学への全面移行を検討しているというニュースが流れて1年余りたちました.その後の話の展開を簡単にお知らせしたいと思います.

結果から言えば,全面移行というのはなかなか難しいようで,例えば今年1月の読売オンラインの記事によれば,東大総長(学長)は会見で「大学だけではなく、社会の条件が整わないといけない。事実認識としては困難だ」と述べたそうです.また,朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」の調査結果によると,全国の大学のうち,自分の大学に全面秋入学に実現性があると答えた大学は14%だったようです.

東大はこれを受けて,春入学を維持したまま,正規の授業を秋から始める学期スケジュールの導入を検討しているとのことです(
東大の発表).この案についても気になる点はありますが,ここでは論じません.詳しく知りたい方は,例えばここの"10月28日追記"をご覧ください.

秋入学への全面移行で問題なのは,就職活動や国家試験の時期とのずれもありますが,全学生が半年間待機を強いられることも大きいように思います.(この間,肩書きは「入学予定者」になるそうです.)自己管理は大変ですし,必死の受験勉強で伸びた思考力や知識量も,半年もたつとずいぶん落ちてしまうでしょう.半年間放り出されて,中には何か思わぬものと出会う人もいるかも知れません.でも一般的によいことかどうか,私自身は懐疑的です---が,人によって考え方はいろいろだと思いますので,読者の皆さまもどんなふうになるか,この機会に少し想像を巡らせていただければ嬉しく思います.

東大の広報をみる限り,この点については説得力のある議論がなく,問題であることの説明らしい説明もないのが気になります.推進する立場からは,都合の悪いことを敢えて明示するのはやりにくい??ということかも知れません.が,秋入学は一旦実施するともう二度と戻せないものですし,"つけ"は将来回ってくるのだから,公平で客観的な議論が望まれます.ただ,去年にブログを書いたときは,東大の発表で「急務」「加速」「待ったなし」といった急いでいる様子の言葉が多く,展開の速さや他大学への波及を心配していました.全国の大学に議論もなく秋入学が広がったら大丈夫だろうか,と思っていたので,検討の結果「実現は簡単でない」「メリットは明らかでない」「メリットがあるとは思わない」等とした大学が多かったのは少しほっとしています.

この話,秋から学年が始まる世界標準に合わせる,ということが出発点でした.そもそも,小中高も含め全て秋入学にすれば空白はできないわけで,全部秋入学にしてはどうか?という案があります.素朴に考えるとまず浮かぶ案はこちらですし,実は個人的にも,全部変えられるんだったら,秋にするといいのではないかと思っています.が,これは変更の規模が桁違いで,いろいろ大変過ぎるということで話がなかなか進まないようです---私も少し想像してみましたが,確かに相当の大事業になりそうです.

前回も割と唐突に持ち上がった話だったので,今後も突然の動きがあるかも知れませんが,今のところこのような状況のようです.特に結論はありませんが,以上ご報告まで.

数学以外 | 21:32:46 | トラックバック(0) | コメント(2)
山中さん
(10/20追記) 明日NHKスペシャルでノーベル賞・山中伸弥 iPS細胞"革命"という番組が放送されるようです.

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iPS細胞で京大の山中伸弥さんがノーベル賞を受賞されました.日本人の受賞でもちろん嬉しかったのですが,今朝ニュースの記者会見を見て,こんな謙虚な方がおられるのかと,山中さんの人格にとても心打たれました.研究仲間やご家族へだけでなく,国や大学にも感謝の言葉を述べておられるということも素晴らしかったです.

京大のホームページには山中さんの情報やニュースがいろいろ載っています.ご本人は神戸大が出身だそうで,神戸大のホームページにもお祝いのページができていました."同級生・後輩からのメッセージ"や,"入学式での記念講演「iPS細胞研究で学んだこと」"など,経歴のユニークさも伺い知れてとても興味深かったです.

数学でなくてすみません.思わず書いてしまったのですが,研究の話題ということでご容赦いただければありがたいです.

数学以外 | 08:01:48 | トラックバック(0) | コメント(0)
東大の秋入学検討のニュースについて
(※少し表現を修正し,議論を補いました.東大の秋入学移行に反対する東大教員有志の会が立ち上がっています.(2/15))


このブログでは数学のことを書いていこうと思っていましたが,数学以外でも社会情勢のことなど,気になることというのは僕にもあるものです.(←当たり前のこと書いてすみません.)この件は僕の仕事と関係も深いので,関係者として意見を書き記しておこうと思います.数学じゃなくてすみませんが,興味のある方の参考になれば幸いです.東大といくつかの大学が秋季入学を検討していること,それを政府も「大変評価」し,また経団連も歓迎すると述べたというニュースのことです.結論から言えば,この実施案には重大な問題点が複数あると考えています.

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僕自身も,どちらかというと学年は秋から始まる方がよいと思っています.世界では学年暦は秋から始まる方が一般的なので,暦が揃っていた方が,留学の他,研究交流などでも便利なことが多そうです.(今回の僕のプリンストン滞在も,暦が揃っていたほうがだいぶよかったです.)また,年度替わりに長い夏休みが来るので,落ち着いて新年度を迎えられるのもよいことに思えるからです.なので第一報を聞いたときは,なんとなくよいニュースのように思いました.ところが冷静になって調べてみると,個人的にはとても賛成と言えるような内容ではありませんでした.(僕の視点から)問題点を解説しようと思います.

※実際にどう話が進んだかを可能な限り知るには,東大が公表している「中間まとめ」というものを読むしかやはりないようです.長い(58ページ)ので,特に興味のある方はご覧ください.
東大の該当サイト「中間まとめ」(PDFファイル)


(1)空白期間
「中間まとめ」によると,高校以下は暦を変えず,大学だけ秋入学に移すそうです.とすると,高校卒業から大学入学まで半年の空白ができます.卒業時期もずれ込むので,実質的に半年間の留年(卒業後も半年空白ができる場合は計1年の留年)です.この,若いときの貴重な時間をどうするのか?この半年の空白を『ギャップターム』と呼び,学生たちにインパクトのある豊富な学習体験をさせるのが教育効果が高いということだそうです.留学・ボランティア活動・企業での就業体験・自主学習などが想定されているようです.大学はあまり関わらず,学生に主体的にやってもらうそうです.

それってどうなんでしょう?例えば留学.留学ってなんとなくよさそうですが,実際のところ,余程はっきりした目標がない限り,ただ数ヶ月海外に住むだけになります.アメリカに少し住んだら英語が上達する,なんてことはありません.留学にせよ何にせよ,自分で計画を立てて身になることを学び取るというのは難しいことです.うまくいかなくても,失敗も経験になるじゃないかという声があるかも知れませんが,少し考えれば分かるように,ここには当てはまりません.動機があり,精一杯知恵を絞りエネルギーを注ぎ込んだ,それでも失敗した,そんな経験が長い目でみて役に立ちうるということであって,そういう土台のない薄っぺらな失敗は何の糧にもなりません.

イギリスの『ギャップイヤー』という制度を参考にしたそうですが,本家のこちらは学生による選択制で,1年間の遅れと引き換えにしても学びたいことがあるというはっきりした目標を持つ学生を支援する制度です.この重い決断をする学生は全体の7.6%ほどだそうで,今の社会制度では高校卒業時にそんな意識を持てる学生は必然的に少数でしょうから,それが妥当だと思います.彼らでこその「失敗も経験」であって,本人の意識と無関係に与えられる(強制される)『ギャップターム』は根本的に異なっています.ギャップタームに大学はあまり関わらないとのことなので,

民間委託→商業主義によって生まれた安直な学習体験→薄っぺらな失敗→学生たちの心の傷

となるような気がします.加えて,半年もの期間を全部自分で管理するという点も,精神的に苦しいものです.学生のメンタル面での負荷はかなり心配です.

(2)国際競争力?
欧米の英語圏の大学と競うため,国際化・英語力強化という目標も掲げられています.周囲でも国際的な競争を迫られる局面が増え,英語の重要性も高まった昨今,この目標自体は僕も賛成ですが,戦うには戦略ビジョンが必要です.話を単純化しますが,例えばマイクロソフトの覇権の下で,グーグルは何をしたか?強力無比な検索サイトを作ってそれを武器に食い込んでいったわけです.アマゾンもフェイスブックもしかり.「マイクロソフトに負けないOSを作ろう」「グーグルに負けない検索サイトを作ろう」みたいな単なる真似では,そのモノサシで既に一番になっている団体には勝てるわけありません.戦うなら,相手の戦略を研究した上で,自分ならではの強みをどう活かして食い込みうるかを冷静に見極めることが必要条件です.戦略もなく戦いの場に乗り込んだりするとヒドイ目にあいます.「中間まとめ」によると外人教員を何パーセントに増やすとか英語の授業を増やすとのことです.何も考えてないということはないはずですが,この説明ではどう戦略を立てているのか不明です.

(3)その他
空白期間の間に学力が低下する点も大きな問題です.また,ギャップターム用に大学としても授業を用意するそうですが,各種制度改革の結果,現在は大学教員もかなり忙しくなっています.不必要に仕事を増やすと,本来担っている教育・研究に支障が出て本末転倒です.(授業の一つや二つぐらいと思われるかも知れません.でも既存の授業と重複しすぎず,目的に沿った授業を新しく計画して準備する,というのはかなりの労力を要するんですよね.)

(4)それから
秋入学は,実施すればもう二度と元に戻せません.(遅らせることはできても早めることはできないのです.)後で「しまった」とならないよう,事前に,起こりうる問題点についての冷静で緻密な検討が必要です.

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東大の発表後,首相と経団連代表がすぐ賛成を表明しました.事前にかなり根回しがあったのでしょう.首相は『評価する.官民でよく議論を』と言ったとか.「よく議論を」というのの先に「評価」という言葉(←というかもうちょっと突っ込むと,「評価する」という表現だが,回答の中身は完全に「賛成する」である)が来るのがすごい.東大の「中間まとめ」では,『これを機に幅広い議論が展開されることを願う』と書く一方で『待ったなし』と煽り立てるようなフレーズもあって,読めば読むほどいい加減な議論が目につきます.残念なことですが.

もうまじめに反対意見に取り合う気は上層部にはなく,もはや秋入学は既定路線なのかも知れません.しかしこれが日本中の大学にどんどん波及する可能性を考えると余計に恐く,結果はさておき僕がやれることがあったら(このブログを含め)やっておきたいと思っています.

数学以外 | 13:25:47 | トラックバック(0) | コメント(2)

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