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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
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連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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割り切れる分数・割り切れない分数(前編)
おそらくこれはどなたも一度は疑問に思われたことがあるはず--今日はそんなお話をしたいと思います.

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1/2は割り切れて0.5,でも1/3は0.3333...と3がどこまでも続いて割り切れない.
1/2 & 1/3
0.3ならよい.0.33でも0.333でも,何なら0.333333でもよい.しかし終わることなく3が続く数なんて,果たして本当に存在するのか?---これは算数で,僕が最初にぶつかった哲学的難問(?)であった.

100mlの1/2は50mlでこれは正確に測れる.でも1/3なら33.3333...ml で,正確であらんとガンバっても,家で測るならせいぜい33ml程度で妥協することになる.しかもこれは,もっと立派な計量装置を用意できても,結局どこかの桁までの近似で諦めざるをえないのだ!つまり1/3なんて正確には実現できないじゃないか.

この問題は当時の僕の手に余り,周りの大人に聞いても満足いく答えは得られなかった.存在をなかなか認められない僕は悩んだ末,1/3, 1/6 のような割り切れない分数は,1/2, 1/4, 1/5のような割り切れる分数のワンランク下の扱いにしようと決め,もってなんとか心の平安を保とうとしたのだった.

しかしそんな違和感も,時と共にだんだん薄れてくる.最大の要因は,小学校高学年で分数の四則の練習をずいぶんやったことだろう.慣れは恐ろしいとも言えるし,大切とも言える.たくさん計算をこなす中,毎回気にするのも面倒になってしまった.また,100mlの3等分は難しくても,1時間ならきっちり3等分できて20分となる.だから実生活で使うのは3等分できるときだけにすればよいし,それなら便利だろうと考えるようになった.そしておそらくもう一つポイントだったのは,通分を習った後でやる
1/3 + 1/6
のような計算.割り切れない「ワンランク下の分数たち」を足して割り切れる1/2が出てきたりする.こうなると,「ワンランク下」と言って区別する意義もなんだかよく分からなくなってしまったのだ.

そんなわけで,中学に入った頃はもう違和感は消えて,割り切れる分数も割り切れない分数もだいたい同等扱いだった.ところが中3のとき,製図用具として配られた定規を手にしてこの問題が復活してしまう.その定規,両側にある目盛りの片方は1ミリ単位だったが,もう片方はなんと1センチを3等分したのが単位の目盛りだった.これは1センチのピッタリ3等分なのか?それとも0.333センチ, 0.333センチ, 0.334センチのように,目に見えない程度にちょっと違うのか?もちろん現実の定規は,目盛り線自体に幅もあるし誤差もある.でも理論的にこの定規はアリなのか,気になってしまったのだ.やっぱり割り切れない分数は割り切れる分数とは異質なものではないか?


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さて,長々と思い出話を失礼しました.この先の話ですが,結論から言うと,割り切れる分数と割り切れない分数を区別する必要がないということに,僕は高校生のときに気づきました.とはいっても,その説明に難しい数学は必要ありません.次回はなぜ区別しなくてよいかお話したいと思いますが,みなさんもよかったら,小学生に質問された気になって考えてみてください.


コラム | 16:13:57 | トラックバック(0) | コメント(0)
素数のレース・5--付記
前回まで連載『素数のレース』,タイトルを付け直しました.

素数のレース・1--真剣な競争
素数のレース・2--勝負は永遠,でもリード期間に差が?
素数のレース・3--ゼータ関数と複素数平面
素数のレース・4--100万ドルの懸賞金問題とその先

長い記事だったからか,追記しておきたいことが出てきました.新たな話題に移る前,今日はそれを.

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素数のレースの話が,いつの間にやら100万ドル懸賞金問題のリーマン予想に発展してしまいました.リーマン予想は非常に有名な話題で,解説した本も多く出ています.ここでは一般向けのサイエンス読本として,さらに知りたいと思われる方のために,以下の2冊を紹介します.

『素数に憑かれた人たち』ジョン・ダービーシャー (著), 松浦 俊輔 (訳), 日経BP社
『素数の音楽』マーカス・デュ・ソートイ (著), 冨永 星 (翻訳), 新潮社

どちらも今手元になく,詳しいことが書けず申し訳ないのですが,読んだとき面白いと思った記憶があります.『素数に憑かれた人たち』は,数学の解説と,歴史や人物の解説を交互に進めるユニークな構成でした.『素数の音楽』もかなり面白かったのですが,これは絶版かもしれません.でも,リーマン予想に関して是非とも本を読みたいという方にはお薦めできますので,古本屋さんで探してみてください.



もう一つ,ゼータ関数のことで,大切だけど説明を省略した点について補足したいと思います.ディテール(詳細)にこだわらない方は,大雑把に流し読んでいただいて構わないことですが.

突然ですが以下の式をご覧ください.どう思われますか?
そんなバカな!!ですよね.3倍しながらドンドン大きくなっていく数を無限に足していった結末が負の分数??無茶な式です.しかし,目的のためには手段を厭わない昨今の数学研究者たち(?)は,整合性に注意を払いながら,慎重にそして大胆に,このような式を扱うことがあります.

では,"証明"してみましょう(!) この左辺の 1+3+9+27+... を A とおきます.すると
となります.A=1+3A を解いて A=-1/2, 以上証明終わり.

うーん,怪しいですねぇ(笑).しかし他にも例えば,初めの2つの1+3を別にしてくくっても,
A=1+3+9(1+3+9+....)=4+9A
となってやっぱり A=-1/2 となりますし,1+3+9を別にしてくくってもやはり同じになります.いかがでしょうか??中途半端に説得力があるだけに,『ヘンだが一応認めてヨイ』という気になってくださる方,『到底認められン!』と余計に警戒される方,どちらもおられると思います.

もう少し「正統的」な説明をします. 無限等比級数の公式
というのがあります.これは |r|<1 でないと成り立たないのですが,これに誤って r=3 を代入すると (I) になります.これは「間違って」いるのですが,式(II)の奇妙であり面白くもある点は,左辺には r=3 を代入できない(=無限大となり数値として意味をもたない)のだけど,右辺は r=3 を含め,1以外はどんな値でも代入できる(=数値として意味をもつ)ということです.

ゼータ関数は和で書くと
でした.ゼータ関数には例えば,ζ(-3)=1/120 という公式があります.これも
と書いてしまうと,冗談はヤメィ!とばかりの奇妙な式です.(III)の無限和に代入して収束するのは,sの実数部分が1より大きいときだけなのですが,しかしこの無限和も(II)のようにうまく変形することができて,その変形した後の式には堂々と,1以外のどんな値も代入できるようになります.このような変形は,専門用語で『解析接続』と呼ばれています.

「実数部分が1/2の直線上にある零点」というのも,実数部分が1以下なので,(III)の無限和に代入することはできません.しかし,その変形の後は代入ができ,それで ζ(s)=0 となる点を言います.そしてこの事情は,エル関数の零点も同様です.


以上です.ではまた次回,新しい話題でお会いしましょう.

(追記)
『素数に憑かれた人たち』には,同著者による『代数に惹かれた数学者たち』という,姉妹編のような本があります.こんなことを書くのは気が引けるのですが,この『代数に惹かれ数学者たち』の方は,びっくりするほど面白くありませんでした.『素数に憑かれた人たち』は面白かっただけに,同じ著者で何故?と思って並べて読み比べたりしたのですが.この2冊の落差に,今でもちょっと狐につままれたような気分です.敢えて読んでいただくほどのことはありませんが,もし両方とも読んだという方がおられたら,感想をお聞かせいただけませんか.


コラム | 21:55:23 | トラックバック(0) | コメント(0)
素数のレース・4--100万ドルの懸賞金問題とその先
第1部第2部第3部からの続きです.「ゼータ関数・エル関数の零点」をキーワードに,素数のレースについて解説しています.今回が最終回です.

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さて,キーワードの『ゼータ関数の零点』ですが,これは ζ(s)=0 となるような複素数sのことです.『エル関数の零点』も同様,L(s)=0 となるsを言います.いつζ(s)=0 となるか,またL(s)=0となるかが,素数の様子を反映していることは,リーマン (Riemann, 1826-1866) というドイツの数学者によって発見されました.

Riemann

関係している理由はさほど簡単ではなく(残念なことに!),ここでは説明は省きます.ともかくこの関係を見抜いたリーマンは,ゼータ関数 ζ(s) の零点をいくつか手計算で調べ,驚きの発見をします.

0.5+(14.134725...) i ,
0.5+(21.022040...) i ,
0.5+(25.010858...) i ,
0.5+(30.424876...) i ,
0.5+(32.935062...) i ,
0.5+(37.586178...) i ,

なんと,虚数部分は複雑だったものの,実数部分はすべて1/2 (=0.5) だったのです.このこと,及び(おそらくは)一定の直観的・理論的な解釈から,リーマンはこれが無限個ある零点すべてにあてはまるのではと予想しました.これが現在,リーマン予想 (Riemann Hypothesis) と呼ばれているものです.

リーマン予想:ゼータ関数の零点はすべて,実数部分が1/2の直線上にあるのでは!?

「実数部分が1/2」の直線とは,ちょうど前回書いた,複素数平面上の垂直な直線です.
Riemann

素数の様子を知るために正否を知りたい,そして成り立つならば何より,どうして一直線上に並ぶなんてことになってるのか理由が知りたい,と多くの数学者が考え取り組んできました.ところがリーマンが予想して以来これが未解決問題として数学界にデンとばかり鎮座し続けること150年余り!なかなか解決の糸口も見えません.解けないのです.ひょっとすると世界のどこかで秘密の研究を進めている人がいるかも知れませんが,一般的に言って,今も解決に向けた明確なビジョンはないと言ってよさそうです.まさに動かざること山の如し.

一方,この予想の解釈や類似を通して興味深い数学が数多く生み出されているという事実もあり,それもリーマン予想が数学者に重視にされている理由です.気取って例えれば,登頂を阻むけわしい高峰でありつつも,岩清水が豊かに湧き出る名山,といったところでしょうか.西暦2000年にはついに,ミレニアム懸賞金問題という,100万ドルの懸賞金が懸かった7題の1つとなりました.解けたらお金持ちですねぇ.

素数のレースに話を戻しましょう.これはエル関数の零点に関係しているのでした.実は,エル関数の零点についてもリーマン予想と同じことが成り立つのでは,という予想があります.

一般化リーマン予想:エル関数の零点もすべて,実数部分が1/2の直線上にある!?

これもまだ正しいかどうか分かりません.ゼータ関数とエル関数の零点については,リーマン予想の先に『線形独立性予想』と呼ばれる予想があります.これもまた難しそうなのですが,両方の予想とも正しいとすると,レースで各組がリードをとっている割合を(ここまで来てついに!)理論的に求めることができます.

4で割った余りのレースでは,レース初期の観察では3組のリード期間がずっと長かったのでした.対数測度という測定方法で測ると,この無限に続くレースで3組がリードしている期間は全体の約99.59%を占めることが分かります.なるほど,の割合です.そして,3で割った余りのレースでは,観察では2組のリードがさらに顕著でした.これも計算すれば,2組がリードしている割合は約99.90%,つまり1組のリード期間は1000分の1ぐらいしかない,というわけです.

この99.59%, 99.90%の違いですが,これは L(s) と l(s) の零点の分布の違いから来ます.両者を複素数平面上で見比べてみましょう.左が L(s),右が l(s) の零点です.
zero            zero
同じ直線上にあるといっても,左の L(s) の零点のほうが少し密に分布していて,それがパーセントの違いのもととなります.このように,零点が一直線上に並んでいるかどうかというだけでなく,直線上にどう並んでいるかということも素数の様子の反映となっています.100万ドルのリーマン予想はまだまだ簡単に解けそうにはないけれど,でも,研究者たちはその先についてもいろいろな試み・調査をしています.

ずいぶん長くなりましたが,これで『素数のレース』の連載は終わりです.この連載は,"Prime Number Races (PDFファイル)" という記事を僕自身が目にしたのが始まりでした.英語ですが,興味のある方はご覧になってみてください.「続きを読む」では線形独立性予想などについて,ある程度数学の詳しい知識をお持ちの方向けに補足をします.

それではまた.

(補足)実際はゼータ関数・エル関数には,「自明な零点」と呼ばれる負の整数の零点が別にあります.これらは簡単に計算できる一方,素数の様子とは直接関係しないので,説明を省略しました.また虚部が正の零点のみを説明しましたが,零点は実軸の下側にも,実軸に関して対称に存在します.

続きを読む >>
コラム | 17:06:40 | トラックバック(0) | コメント(4)
素数のレース・3--ゼータ関数と複素数平面
前々回前回と,素数たちがレースを繰り広げている模様をお伝えし,レースの様子がゼータ関数・エル関数という関数たちと関係していると述べて終わりました.その関係について,研究の現状がまだまだ発展途上であることも含め,具体的に紹介します.少し数式が増えてしまいますがご了承ください.(数学のブログだからたまにはそういうことがあっていいですよね?)
キーワードはゼータ関数・エル関数の零点(れいてん)です.

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ゼータ関数は積の形で書くと,
という関数です.(分数の中に分数があって分かりにくい!と考えた場合,それぞれ通分して
と変形しても構いません.しかし,上の表示は変数 s が1ヶ所にまとまっているメリットがあるので,ここでは上の表示を採用します.)

そして,4で割った余りのレースは,
というエル関数が関係します.それぞれの因子にある1,-1はその素数が4で割った余りが1か3かに応じて決まり,また素数2のときは0になるのでした.同様に,3で割った余りのレースも,その様子を映し出すエル関数があります.それは
という関数です.今度は1,-1はその素数が3で割った余りが1か2かで,また素数3のときは0です.(同じLではごっちゃになるので,小文字を使いました.)

さて,これらの関数が素数と結びつくためには,変数 s は実数だけでなく,複素数にもなってもらわないといけません(!)言い換えれば, s は数直線上を動くのみならず,複素数平面上を動きます.---これはまことに突然も突然,唐突の話,エー!と驚いていただくよりないのですが,ともかくそういうことになっております.

複素数と複素数平面について少しだけ説明しますと,その考えは次の3ステップからなります.
 2乗すると-1になるような数 i があると想像する.つまり i2=-1.
 x,y を実数として,x+yi という形で表される数(=複素数)の世界を考える.
③ これまで xy平面上で(x,y) という実数の組を表していた点が,x+yi という複素数を表していることにする.そのように考えたときの平面を複素数平面という.

複素数平面

いずれのステップも,はじめてご覧になる方には受け入れがたいであろうかと思います.(高校の数学で①②が出てきます.③はそのときの指導要領によって,入っていることもいないこともあります.)こういった新しい”異質”な考え方を受け入れるためには,時間をかけて馴染むこと・その有効性を知ることの双方が必要でしょう---僕自身も受け入れ,納得するのには随分時間がかかりました.しかし,ここでその解説を展開するわけにもいきません.それは機を改めることにして,ここでは話を先に進めます.

複素数 x+yi で,xのことを実数部分(あるいは実部),yのことを虚数部分(虚部)といいます.一例として,「実数部分が1/2であるような複素数」の集まりが複素数平面上でどう位置しているかを図示すると次のようになります.
複素数平面1/2

また長くなりました.続きは近日公開します(必ず!)


コラム | 02:04:07 | トラックバック(0) | コメント(0)

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