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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
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連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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7進法の世界では?
なぜ1/2は3進法で0.1111.... となるの?という質問をいただきました.今日は,先日の『割り切れる分数・割り切れない分数(前編後編)』のオマケの話で,このことを話したいと思います.3進法でもいいのだけど,7進法ぐらいの方がオモシロイので,7進法で1/2を考えてみましょう.

まずはウォームアップの問題です.1週間をちょうど2等分するとどうなるでしょうか?


答えは「3日間と12時間」ずつですね.1週間=7日だから,まず3日ずつに分けて余りが1日.そして1日=24時間だから,2等分して12時間,という計算です.ここで時間単位(週・日・時間・分・秒)のシステムを考えてみると,1週=7日,1日=24時間,1時間=60分,1分=60秒となっています.慣れているから何とも思いませんが,全然知らない人が初めて聞いたら,かなり複雑な単位系に思えるかも知れませんね.これは7進法・24進法・60進法の混合なわけです.

7進法だけでできた世界を想像してみましょう.その世界は時間単位もすべて7進法で統一されています.1週=7日だけでなく,1日は7時間だし,1時間は7分だし,1分だって7秒なのです.なんだか不思議な感じですが,ここは「1時間=7分」の違和感も想像上の世界のことと楽しんでください.

さて,この7進法の世界で1週間を2等分しようとするとどうなるでしょうか??



まず3日ずつに分けて残りが1日.そして,この世界では1日は7時間なのでした.ぴったり2等分はできませんね.3時間ずつ取って余りが1時間です.ではこの1時間を2等分‥いや,1時間は7分なので割り切れません.3分ずつ取って余り1分です.秒まで行っても3秒ずつと余り1秒で,この先もきりがありません.ここまでをまとめて,

1週間を2で割ると,3日3時間3分3秒で余りが1秒

となりました.

時間を例に取りましたが,7進法では,1を2等分しようとすると「3ずつ取って1余る」が永遠に繰り返されることがお分かりいただけると思います.これは,1/2を小数で書くと 0.333333.....と割り切れずにどこまでも続くことを表しています.
1/2 in 7-adic
うーん,イコールで結ぶとやはりちょっと不思議ですね.

他の場合はどうでしょうか.例えば
(1) 3進法で1/2がなぜ 0.1111.... となるか?
(2) 逆に10進法で1/3=0.3333.... とはどういうことか?また1/2=0.5とは?
(3) 7進法で,1/3,1/4,1/5,1/6 を小数にするとどうなるか?
などなど.ぜひお考えください.

コラム | 16:05:57 | トラックバック(0) | コメント(0)
割り切れる分数・割り切れない分数(後編)
前回の前編で,割り切れる分数と割り切れない分数は,数としての性質が根本的に違うものなのか,それとも特に区別して扱う必要のないものなのか,という話を始めました.その最後に書いたとおり,結論としてはこれらの分数に根本的な違いはありません.今回はそのことをお話したいと思います.

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まずは,1/3cmが作図できることをお見せしましょう.ただ1/3cmではちょっと図が分かりにくいので,代わりに5cmの3等分,5/3cmを作図してみます.

sakuzu1[1]
5cmの線分ABを取る.
Aから線分と別の方向に3cmの線分ACを取る.
ACの1cmごとの途中の点をD,Eとする.


sakuzu2[2]
CとBを結ぶ.


sakuzu3[3]
D,EそれぞれからCBと平行な線を引く.
線分ABは,この平行線との交点で3等分される.(!)


5cmでなくても,どんな長さも同じように3等分できます.それどころか,この作図法なら7等分だって11等分だって同じようにできますね.2等分・5等分とそれ以外の3等分・7等分‥が完全に同等の扱いとなるわけです.

僕はこのことに気づいて以降,割り切れるかどうかで分数を区別する必要を感じなくなりました.ところで,これに気づいた--気づいたと言っても自分で思いついたのではなく,これが書いてある本を読んだのですが--のは高校生のときでした.なんと,始めて疑問に思ってから十年ぐらい経っていることになります.これはちょっと長すぎたかも知れません.しかし一般的に言って,分からない問題を気長に頭の中で"飼っておく",そして時々"眺めてみる"ことはとてもよいことだと思います.僕にとってはこの十年の間,数学を嫌いにならずにいられたことは運のよかったことでした.

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割り切れる・割り切れないの問題に戻って,もう少し突っ込んでみましょう.作図できることは分かったので,『なぜ3等分は作図できるのに,1/3は割り切れないのか?』とでも問い直してみましょうか.

1/3は割り切れない.だから1リットルの3等分は,333.333…ミリリットルとどこまでも3が続き,1メートルの3等分も33.333…センチと終わりがありません.でも果たして「1」の3等分はいつでも割り切れないのか?というと実はそんなことはありません.1日の3等分はきっちり8時間で割り切れます.1時間の3等分もきっちり20分で割り切れる.1周の3等分は角度で120度ですよね?

この違い,特に1/3が割り切れない理由は実は十進法という,私たちが使っている数表示の仕組みの方に原因があります.十進法と聞くとなにやら難しそうですが,これは単に

『1つの単位が10個集まったとき一つ上の単位を作る』

という仕組みのことです.例えば日本古来の容積の単位に合・升・斗というのがありますが,1升は10合,1斗は10升のことなので,これは十進法です.一方で,1ダース=12個という単位があります.この上にはグロスという単位もあって,1グロス=12ダースです.これは十二進法になります.「2斗4升7合」は247合とも24.7升ともすぐ分かりますが,「2グロス4ダース7個」は247個ではないし,24.7ダースでもありませんね.これは現在私たちが数の表記に十進法を使っているからなのです.

十進法に慣れていると十二進法が扱いづらそうに見えますが,いろいろな等分ができる利便性が十二進法の長所です.1ダースのボールを3人で分けるとぴったり4個ずつ.他に2,4,6人でも分けられます.1フィート=12インチも十二進法の例ですね.ちなみにこちらアメリカでは,長さはフィートとインチの十二進法を使うのに,重さの単位には1ポンド=16オンスという十六進法が使われます.8オンスと聞いて半ポンドとはなかなかピンと来ません.全てが十六進法ならまだそのうち慣れそうですが‥正直やめてほしいです.おっと話がそれました.

数表記に十進法を使っている私たちは,小数点以下の単位も,十等分の繰り返しで作っています.0.1とは1を10等分した一つのこと.0.01とはそれのさらに10等分だから,100等分の一つです.でも,時間の単位は違う分割を使っています.1日を24等分して1時間を作りますが,その下の単位はどうしているでしょうか?1時間を60等分して1分とし,1分を60等分して1秒としていますね.だからこの時間・分・秒は六十進法になります.

なぜ1時間は20分ぴったりに3等分できるか?それは60等分としての1分を作ったので,それを20個集めれば1/3が作れるからです.1リットルの3等分が333.333..ミリリットルと数が続くのは,1リットルを12等分なり60等分なりした単位を作らず,ただ単に十進法とそれで作った単位(ミリリットル)で書くからなのです.

これを足がかりに数表記について考えてみましょう.仮に数表記に十二進法を使ったとします.すると0.1が12個集まって1ができることになります.4個集まると1/3になるから,1/3は0.4と割り切れる分数になります.もし三進法なら1/3は0.1で,七進法なら1/7が0.1になります.逆に三進法や七進法だと1/2は割り切れないんですよ.僕も思い出すたびに,少し不思議な気になるのですが.例えば三進法で1/2は,0.11111...と1がどこまでも続く数になります.気になる人はぜひ理由を考えてみてください.

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ということで結論です.作図で何等分にするのも手順が全く同じなのは,割り切れる分数と割り切れない分数にあまり差がないことを予見させます.ここまででも十分素晴らしい直感的理解だと思いますが,さらに突っ込んで答えると,『分数が割り切れるかどうかは,数表記を何進法で考えるかによって変わってしまうことなので,その分数そのものの性質とはあまり関係がない』でした.



(お知らせ)記事一覧のページを作りました.左段プロフィールのところにもリンクを貼っています.

コラム | 00:39:47 | トラックバック(0) | コメント(3)
論説の紹介『ガロア理論の基本定理』
分数の話の途中ですが,雑誌『現代思想』の4月号に掲載されている,吉田輝義さんの『ガロア理論の基本定理』という論説が読んで興味深かったので,簡単に紹介したいと思います.

ガロア(Galois,1811-1832)というフランスの天才数学少年によって生み出された,ガロア理論という理論があります.これはその後の数学の流れを変えたほどの重要な"革命的"理論だったのですが,ガロア理論の抽象的な性格もあって,その意味を実感することは数学科の学生にとっても簡単でない(200年近くも経つというのに)のが現状です.アインシュタインの相対性理論は100年も経たないうちにCGとなり,テレビの科学番組で解説され,科学好きの中高生の心を掴んでいる--それと比べると数学者としてはちょっとクヤシイ.そんな中この論説は,ガロア理論の本質を損ねることなしに,ガロア理論とその意義を一般の読者向けに描き出そうと試みた野心作です.

数学者にとってはまず何より,基本定理の(驚くほど!)短く完結した証明がある点がポイントであろうかと思います.そして線形代数的な証明法による特徴として,ガロア理論から方程式論を完全に分離した理論展開になっています.たいてい教科書ではガロア理論と方程式論はごちゃまぜに進むので--それ自体は悪いわけではありませんが--,僕自身も理解が整理されました.

また,一般の方にとっても(数学者にとっても),数学を語ることの意義に緻密な反省を加えつつ,ガロア理論の思想的含意を詳しく論じているので,現代数学に興味のある方には資するところがいろいろあると思います.また,書き口が軽妙でテンポよく --ワイングラス・コーヒーカップやサンマの塩焼き,「過去の消された大人同士の付き合い」やら「悪魔は細部に宿る」やら-- 読み手を飽きさせません.もっとも展開されているのは漫談ではなく内容ある解説なので,読む際には熟読をお勧めしたいのですが.よく読むほどに味が出ると思います.

読んでみて,相対性理論のようにいかないのは導入部分の難しさの違いも大きく,単純に比較しても意味がないこともよく分かりました.しかし,とてもよく書かれていると思います.「びっくり数学島」よりはもちろん高度な内容ですが,一歩先まで覗いてみたいという方には是非お勧めしたい論説です.



(追記1)吉田さんの記事だけコピーが手に入ったですが,まだこの4月号の本自体は入手できておりません.他の記事については何も書けずすみません.

(追記2)ちょっと惜しまれる点は,「D:現代数学」のガロア理論の幾何学的解釈に関する参考文献が挙がってないことでしょうか.もちろん意図的というか,結局のところ専門的なものしかないということで敢えて書かなかったのだろうと思われますが.これは他の記事が参考になるかも知れませんが,ここで個人的に(勝手なことをしますが),久賀道郎著『ガロアの夢』(日本評論社)を挙げておきたいと思います.

(追記3)興味を持たれた方は,他に現代思想の2008年11月号と2009年12月号にも吉田さんの記事があります.

(追記4)基本定理の証明については,若干の改良版がご本人のwebsiteにあるようです.(でもせっかくなので,読むときはこれだけでなく,論説内の「証明についてのライナーノーツ」などとあわせて読まれることをおすすめします.)


日記 | 20:42:32 | トラックバック(0) | コメント(2)

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