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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
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連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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数学の定数と物理定数
円周率の話(その1その2)を引っ張るのですが,少し補足を.

"円周率のもとめかた”でお話したように,円周率は何千桁でも何万桁でも求めることができます.これは,円周の長さを実際に測る代わりに,理論的に捉えることができるからです.ということは逆に考えると,測ることによってしか求められない定数は,精度の向上に限界があるのでしょうか?

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これはもちろんその通りです.よい例に物理で出てくる,いわゆる「物理定数」があります.(物理は専門外で少し自信がないのですが,)万有引力定数は中でも極端な例で,とてもポピュラーな定数でありながら,現在でも正確なところは4桁ぐらいしか分かっていません.他にも,アボガドロ定数,気体定数,陽子の質量などなど,だいたい7桁か8桁ぐらい,よいもので10桁ぐらいです.そして精度を一桁あげるにはそれこそ大変な労力が必要です.

例えば「質量」を考えてみましょう.何か物質の質量が何kgというのを厳密に求めたい場合,どうしたらよいでしょうか.これにはまず,1kgとは何かがはっきりしないといけません.これは「国際キログラム原器」と呼ばれる,人工的に作られた物体の質量と定義されています.だから何かの質量とは,おおもとはこの原器と測り比べることによってしか求められません.そして測定を正確にといっても,桁を一つ上げるたびにどんどん難しくなっていきます.

しかもこれは,ただ単にどんどん難しくなるだけでなく,根本的に限界があります.それは,ミクロのレベルでは国際キログラム原器も常に重さが変わっているということです.どんなに厳重に保管しようと,この現実の世界において,ミクロのレベルでこの原器に微小な物質が付着していくことを止めることはできません.その量は一年に10-10kg程度と見積もられているそうなので,1秒あたりでも少なくとも10-18kgは変化があるということです.だから仮に小数点以下20桁目の視点からみれば,1秒間に百以上も値が変わるという目まぐるしさ.30桁目なんてもうとんでもない!(1秒間に1012=1兆の変化です.)

このようにして物理定数を正確に求めることの難しさを思うと,百桁や千桁って何だろう?と考えさせられませんか. あるいは,1/3 を小数に直して0.333333333.... と3がどこまでも続く,と言ったときの「どこまでも続く」って何だ??と問うこともできます.

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この百桁や千桁って,空想上の話なんですよね.もう少しカタイ言葉を使えば"理念上"とでも言うべきでしょうか. 0.1, 0.01, 0.001, 0.0001,... とはなんだったかというと,もちろん 『0.1は1の10等分,0.01は0.1の10等分,0.001は0.01の10等分,と続けていく』ですが,ここでこの10等分がどこまでも続けられると考えるのが空想上の話です.現実の物質は,もし分子や原子(あるいは素粒子)が最小単位ならそこで分割はストップしますし,もっと下もあったとしても,現実としてはどこまでも続けることはできません.

この点,「実数」という名前がよくない,という話もあります.「現実に存在する数」とイメージしてしまいがちですが,本当は理念上の,僕らの頭(あるいは心)の中にしか存在しないものです.数学は,実数にせよ,微積分にせよ確率にせよ,問題意識は現実世界からスタートしていても,どこかで現実そのものとは離れた世界に飛び立ち,そこで(どこまでも)厳密で整合的な理論を展開します.逆に,ちょっと教訓めいた話になってしまいますが,『2乗して-1になるなんて現実には存在しないものを!』というのも実は虚数に対する正しい批判ではありません.数学にとって問題なのは,それが論理的につじつまのあった理論になるかということと,それによって,これまでは分からなかったことが分かるようになったり,これまでは複雑に見えていたものが簡単に説明できるようになったりするか,ということにあります.複素数(虚数)を使うとびっくりするほど単純になる,物理の理論もあるんですよ.

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(追記)"円周率のもとめかた”で,円周率を5兆桁計算した近藤さんの話をしましたが,ついに10兆桁を達成したというニュース(信濃毎日新聞産経ニュース)がありました.すごい.

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コラム | 04:09:17 | トラックバック(0) | コメント(2)

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