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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
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連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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本の紹介『解決!フェルマーの最終定理--現代数論の軌跡』
整数論研究者の加藤和也さんによる『解決!フェルマーの最終定理--現代数論の軌跡』という一般向けの解説書があります.今は品切れで重版も未定のようですが,紹介したいと思います.

この本,確か帯には「本書は,フェルマーの最終定理の証明への軌跡と数学的内容を,丁寧に,また日本昔話をアナロジーとして用いて解説した待望の書である」とか,ちょっと変わった宣伝文句が書いてありました.(注:加藤さんは日本昔話を愛好していらっしゃいます.)待望の書だったかはともかく,本を開くと不思議な文章が随所に散りばめらていて,通常の解説書の枠をはみだした作品になっていることは間違いありません.いくつか(著作権が問題にならない程度に収まっていると期待して)引用してみますと,

--- この偉大な人たちも,ゼータのふしぎな笛の音を聞いてその根源をたずね,遠く行った人達,ゼータぐるいの人達と言えましょう.たとえば孫にくるうおじいさんのほほえましい姿を,身近によく見かけますが,青年・中年・老年によらず,そのようにくるうこと夢見ることの大切さが思われます.
--- この科学の時代に,文明の利器がこうもまったく歯が立たない相手といえば,ゴジラかバトラかはたまたビオランテか,といく気がしますけれども,楕円曲線を一つ描けば,神秘は私達の手もとに,怪獣のようなうなり声をあげることなく静かに来てたたずむのです.
--- すなわちセルマー群は,宝箱は宝箱でも玉手箱であり,箱のふたを開けても白煙が邪魔をして,中の玉の個数を数えることができません.…(中略)…玉手箱を,月の精の化身であるかぐや姫の前に置く時,その発する月光を受けて玉手箱の中の玉は煙に打ち勝って青く光り,玉の個数が数えられるようになる…これは,ゼータの化身を用いた最近の岩澤理論の発展から見て,十分に期待されることでした.
--- 本稿を読まれて,ゼータの正体をあまり研究すると,鶴が正体を見られるのをいやがったように,ゼータさんがいやがるのではと心配になるかたもおられるかと思います.中山さんのお話ではその心配はなく,鶴さんは今では与ひょうさんがたずねてくれるのを待っているとのことです.
--- 思いみるに,私達の身のまわりに,有理数係数の方程式であらわされる図形や現象は多いと思うのです.だから私達の身のまわりでは,Gal(Q/Q)が渦を巻き,素数が吹く笛の音が流れ,ゼータが化身をしているのかなあと思います.
--- さまざまのゼータ関数の値について学んだり研究したりしていると,ゼータ関数の本当のすみかは,R世界とQp世界の両者の上に存在する,現代数学がまだとらえられていない場所にあり,ゼータ関数はそこから「定義されるために」R世界におりてきて,また,あふれる思いをおさえかねてQp世界にもおりてくるように思わずにいられない.

他にも,お地蔵さん/浦島太郎/ローレライの谷/一反もめん/ぺかぺか世界/p進山道 などなど,とても全部挙げられるものではありませんが,不思議なような,それでいて暖かみのあるようなたとえ話・言い回しがいっぱいの,加藤ワールドが展開されています.

ではどなたにでも薦められる本かというと,そこがちょっと難しい.先生ができるだけ正確な解説を心がけられたため,一旦数学の解説に入るとある程度本格的な内容も出てくるからです.また,数学をたとえ話や自然言語で説明することの限界も見えるように思います.それで需要が少なく,品切れて重版未定になってしまうのでしょう.しかしこんな規格外級の本は,いつの時も必要な人が入手できるよう,本屋さんに並んでいて欲しいなぁという気持ちもあります.こういったジレンマは解決が難しいのでしょうね.そんな本ですが,興味のある方は是非(古本屋などで探して)お読みになってみてください.

出版されて15年ほど経った今,気になる点を挙げるとすれば,文中に「難解」「奥深い」といった表現が多く出てくることでしょうか.これは専門家にとっても全く新しかった最先端の理論を一般向けに解説するという試みの連載の中,当時としては当然のことだったかも知れません.ただ,今となってはこれがかえって心理的な障壁となる可能性もあるので(以前のブログ『習うときはタンタンと』で書いたように),難解さとかはあまり気にしない方がいいかとも思います.

以前,台湾人の友人にこんなことを言われたことがあります.『最近はアジア出身で成功した数学者も増えた.しかしそのほとんどは欧米式のスタイルで研究をしてきて,ある意味で欧米の研究者と区別がつきにくい.その点加藤先生は,欧米式とは言えない,日本の文化をバックグラウンドに持つスタイルで研究をしているように見えて,"日本の数学者"という感じがする.』日本の文化を背景にと言っても曖昧ですが,数学においても,欧米と張り合うことだけを考えるのではなく,日本人らしさ(自分らしさ)を大事にしたいものと思います.

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本などの紹介 | 12:27:40 | トラックバック(0) | コメント(0)

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