■プロフィール

谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
今まで書いたもの一覧



連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

■カテゴリー別
■新しいコメント
■リンク
■RSSリンクの表示
■カウンター

本の紹介『おもちゃの科学セレクション』
おもちゃの科学セレクション(1巻2巻3巻)
戸田盛和(著),時枝正(解説)
日本評論社(各巻1900円+税)



以前に,解説の時枝さんが連載している記事「こどもの眼・おとなの頭」を紹介しました.これはその後も

  第7回:光より速く
  第8回:絵で追う近似
  第9回:水の皮・朝夕の水
  第10回:無理な数のこしらえかた
  第11回:重力をけしたりつけたりそらせたり
  第12回:帯をねじって裂く

と続いていて,相変わらずの面白さです.機会があればぜひご覧ください.時枝さんは今ハーバード大にフェローとして1年間滞在されていて,活動テーマは Toys in Applied Mathematics となっています.おもちゃを応用数学から眺めてみる,といったことなのかなと思います.

え??数学者がおもちゃ??と思われる方も多いかも知れません.が,実は時枝さんはおもちゃに大変造詣の深い方で,おもちゃの研究,発明,そして普及,伝承,啓蒙,に力を注いでおられます.今回紹介する本の著者,戸田盛和さんも(物性理論の大家であると共に)そのような方で,年代的にはその後継者とも言える時枝さんが,魅力的で示唆に溢れる解説を手がけておられます.

●   ●

この本で取り上げられているおもちゃは,ぜんまいを巻く,電気をつなぐ,といった込み入ったものでなく,物理の原理をうまく使った簡単なおもちゃ--例えばやじろべえ,だるま落とし,逆立ちゴマなど--です.時枝さんは1巻の解説で,この本で語られているおもちゃを,

標語風に特徴づけるならば,「おもちゃ」は

  一.てがるに自作か入手できて,からくりがあればごく単純で,
  二.気の利いた遊び方をしてやると,奇妙な,またはきれいなふるまいをし,
  三.科学の玄人をフムムと考えさせるもの

だといえる.


とまとめておられます.そして,それは科学の研究そのものであるとも.解説を読んでいると全部載せてみたい気持ちになるのですが,そんなことをしてもしょうがないので,ここではごく一部を引きたいと思います.

(上の)一,二,三を譬でまとめてみよう.幼児に玩具をプレゼントしたとき,その子が大人お目当ての玩具には目もくれず,その代わり包装紙や空箱でばかりあれこれ遊ぶのを目にしたことがないだろうか?幼児はおもちゃ科学者なのかも知れない.(...中略...)おもちゃ・科学の動機は,役に立つからではないし,役に立たないからではなおさらない.問題の答が知りたかったら,紙や箱で遊ぶ幼児に尋ねてみてもよい.

幼い子供が心惹かれるものに無心に遊んでいるさまというのは,それ自身が私にとっては最も心惹かれる場面の一つなので,時枝さんの解説はとても印象に残りました.興味を持たれた方は,解説の全文をぜひ直接お読みください.(解説だけなら,ご本人のホームページからもダウンロードできるようです.)

●   ●

本の内容そのものを全然話していませんね.すみません.少し読んだのですが,ある程度読んでから書こう,と思う間に半年ぐらい経ってしまったので(そういう感じのものを他にもいくつか抱えております),ごく簡単にまとめて,ひとまず本の紹介だけでもと考えた次第です.40弱ぐらいのおもちゃがそれぞれ読みきりで解説されています.簡単なおもちゃながら,原理は奥深いこと,分かってないこともあること,仕組みが分かれば真似をして自分独自のおもちゃが発明できること,などが説明されています.戸田先生ご自身による挿絵も分かりやすく,見るのも楽しいです.それなりに詳しく検討するので,誰もがスラスラと読める本ではありません.が,逆に,離れられないぐらいこの本の虜になる少年少女がいるに違いない.

小さな町工場を長年経営してこられた知り合いがいます.(小さいからと侮らないでくださいね.小さいのに工場としてちゃんと成立するというのはもちろん,比類ない技術があるからです.)その方に本を見せたらさすがでした.遊んだことのあるおもちゃも多く,挿絵を頼りにざっと見るだけで,どういうおもちゃでどういう原理か,だいぶ分かるそうです.そして本に載っているほぼ全ての機構が,さまざまな工業技術に多数の応用の場を持っているとのこと.願わくば,この本と出会い虜になる若い人から,次世代の技術を担う人が現れることを.実際には数学の本というよりは物理や工学の本でしょうが,すぐれた本は幅広くという思いから,数学者の時枝さんを介して,今回この本を挙げてみました.

●   ●

ところで最後に重要なお知らせです.(とにかくこれを早く書かないとと焦っていました.)3月15日(土)に,時枝さんが日本数学会の市民講演会で講演されます.タイトルは「おもちゃからの数理モデル」で,場所は学習院大学.私は時枝さんの講演を聞いたことがないのですが,でも,きっと面白い.今回私は行けないのが悔しいのですが,一般の方も入場自由です.興味のある方はぜひ足を運んでみてください.

続きを読む >>
本などの紹介 | 05:01:24 | トラックバック(0) | コメント(3)

FC2Ad