2014-08-18 Mon
この本は、シーモア・パパート(Seymour Papert, 1928--) という数学者の書いた教育書です。あまり類のない珍しい作品ではと思いますが、読んで気づくことがとても多かったので、簡単に紹介します。わりと本格的な本だったので、きちんと理解できていると断言はできないのですが、分かった限りのことを記したい思います。
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この本の根底にある、学びと教育についての考え方は、
『子供は(そして人は)自分の置かれた環境の中から、自分の成長に必要なものを選び取って、自分の知識構造を組み立てていくのであって、その組みあがっていく知識構造は、一人ずつ異なった素材からできている異なった作品のようなものだ、したがって教育とは、一人一人が自力で自分用の知識構造をデザインしていけるように力を引き出してやることだ』
ということです。
それを踏まえて、この本では、
『故意に教えなくても自然に起こるような学習を、どのように誘発させることができるか』
『子供を、自分の学習を積極的に築き上げる設計者にするにはどういう方法が考えられるか』
等が論じられています。具体的には、当時急速に普及しつつあったパソコンが、小学生ぐらいの年齢の子供の学習に大きな可能性を持っている点について、その方法や実例が論じられていますが、考え方はかなり普遍的で、時代や対象年齢に関係なく当てはまるように思いました。
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何にでもあてはまることですが、たとえば数学を会得するためには、学校で数学を教わったり教科書を読んだりするほかに、個人的な活動としての数学が必要です。教科書には数学の正確な形式が書いてありますが、それが個人的な活動としての数学と結びついてはじめて、数学は面白くなるわけです。その意味では、あくまで個人的な学びが主であって、教わることは従に過ぎないのかな、と思います。どんなに「分かりやすい考え方」に触れることができても、自学が引き起こされなければ伸びない、とも言えるかも知れません。
教育書をいろいろ読んでいるわけではないので、ここにまとめたことは「どこにでも書いてあること」なのかも知れませんが、このような考え方をベースに教育のあり方をかなり緻密に分析している点で、この本は示唆に富んでいると思います。興味があったらぜひ読んでみてください。
2014-08-05 Tue
理研の笹井さんが亡くなられたそうです。あまりの悲劇に言葉を失いました。私はもちろん笹井さんにお会いしたこともありませんし、再生医療のことも何一つ知りません。でも、笹井さんが日本の、ひいては世界の科学界の宝のような方であったことは間違いないと思っています。私たち(科学者)は、このような出来事が再び起きることのないよう、足りない知恵を絞り、何ができるかを懸命に考えていかなければならないのだと思います。ご冥福をお祈りします。