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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
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連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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素数のレース・4--100万ドルの懸賞金問題とその先
第1部第2部第3部からの続きです.「ゼータ関数・エル関数の零点」をキーワードに,素数のレースについて解説しています.今回が最終回です.

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さて,キーワードの『ゼータ関数の零点』ですが,これは ζ(s)=0 となるような複素数sのことです.『エル関数の零点』も同様,L(s)=0 となるsを言います.いつζ(s)=0 となるか,またL(s)=0となるかが,素数の様子を反映していることは,リーマン (Riemann, 1826-1866) というドイツの数学者によって発見されました.

Riemann

関係している理由はさほど簡単ではなく(残念なことに!),ここでは説明は省きます.ともかくこの関係を見抜いたリーマンは,ゼータ関数 ζ(s) の零点をいくつか手計算で調べ,驚きの発見をします.

0.5+(14.134725...) i ,
0.5+(21.022040...) i ,
0.5+(25.010858...) i ,
0.5+(30.424876...) i ,
0.5+(32.935062...) i ,
0.5+(37.586178...) i ,

なんと,虚数部分は複雑だったものの,実数部分はすべて1/2 (=0.5) だったのです.このこと,及び(おそらくは)一定の直観的・理論的な解釈から,リーマンはこれが無限個ある零点すべてにあてはまるのではと予想しました.これが現在,リーマン予想 (Riemann Hypothesis) と呼ばれているものです.

リーマン予想:ゼータ関数の零点はすべて,実数部分が1/2の直線上にあるのでは!?

「実数部分が1/2」の直線とは,ちょうど前回書いた,複素数平面上の垂直な直線です.
Riemann

素数の様子を知るために正否を知りたい,そして成り立つならば何より,どうして一直線上に並ぶなんてことになってるのか理由が知りたい,と多くの数学者が考え取り組んできました.ところがリーマンが予想して以来これが未解決問題として数学界にデンとばかり鎮座し続けること150年余り!なかなか解決の糸口も見えません.解けないのです.ひょっとすると世界のどこかで秘密の研究を進めている人がいるかも知れませんが,一般的に言って,今も解決に向けた明確なビジョンはないと言ってよさそうです.まさに動かざること山の如し.

一方,この予想の解釈や類似を通して興味深い数学が数多く生み出されているという事実もあり,それもリーマン予想が数学者に重視にされている理由です.気取って例えれば,登頂を阻むけわしい高峰でありつつも,岩清水が豊かに湧き出る名山,といったところでしょうか.西暦2000年にはついに,ミレニアム懸賞金問題という,100万ドルの懸賞金が懸かった7題の1つとなりました.解けたらお金持ちですねぇ.

素数のレースに話を戻しましょう.これはエル関数の零点に関係しているのでした.実は,エル関数の零点についてもリーマン予想と同じことが成り立つのでは,という予想があります.

一般化リーマン予想:エル関数の零点もすべて,実数部分が1/2の直線上にある!?

これもまだ正しいかどうか分かりません.ゼータ関数とエル関数の零点については,リーマン予想の先に『線形独立性予想』と呼ばれる予想があります.これもまた難しそうなのですが,両方の予想とも正しいとすると,レースで各組がリードをとっている割合を(ここまで来てついに!)理論的に求めることができます.

4で割った余りのレースでは,レース初期の観察では3組のリード期間がずっと長かったのでした.対数測度という測定方法で測ると,この無限に続くレースで3組がリードしている期間は全体の約99.59%を占めることが分かります.なるほど,の割合です.そして,3で割った余りのレースでは,観察では2組のリードがさらに顕著でした.これも計算すれば,2組がリードしている割合は約99.90%,つまり1組のリード期間は1000分の1ぐらいしかない,というわけです.

この99.59%, 99.90%の違いですが,これは L(s) と l(s) の零点の分布の違いから来ます.両者を複素数平面上で見比べてみましょう.左が L(s),右が l(s) の零点です.
zero            zero
同じ直線上にあるといっても,左の L(s) の零点のほうが少し密に分布していて,それがパーセントの違いのもととなります.このように,零点が一直線上に並んでいるかどうかというだけでなく,直線上にどう並んでいるかということも素数の様子の反映となっています.100万ドルのリーマン予想はまだまだ簡単に解けそうにはないけれど,でも,研究者たちはその先についてもいろいろな試み・調査をしています.

ずいぶん長くなりましたが,これで『素数のレース』の連載は終わりです.この連載は,"Prime Number Races (PDFファイル)" という記事を僕自身が目にしたのが始まりでした.英語ですが,興味のある方はご覧になってみてください.「続きを読む」では線形独立性予想などについて,ある程度数学の詳しい知識をお持ちの方向けに補足をします.

それではまた.

(補足)実際はゼータ関数・エル関数には,「自明な零点」と呼ばれる負の整数の零点が別にあります.これらは簡単に計算できる一方,素数の様子とは直接関係しないので,説明を省略しました.また虚部が正の零点のみを説明しましたが,零点は実軸の下側にも,実軸に関して対称に存在します.


【1】π4,1(x), π4,3(x) でそれぞれ,x未満の素数で4で割った余りが1,3となるものの個数を表すと,この差は,L(s) の零点にわたる和を用いて表すことができます.特にL(s)に対するリーマン予想を仮定すれば,
が成り立ちます(右辺の和は虚部が正の零点全体にわたり,条件収束).L(s) における線形独立性予想とは,L(s)の(可算無限個ある)零点 1/2+γ i について,γたちが有理数体Q上線形独立であろうという予想です.証明は相当難しいでしょうが,Q上線形従属であるべきどのような理由も見当たらないというのが,強いて言うならこの予想を支持する根拠となりうるでしょう.

γたちがQ上一次独立ならば,右辺の和における「周波」sin(γlog x) の挙動は一つずつバラバラですが,Q上一次従属ならば,これらに「共鳴」が起きて大きな影響を与えうるので,一次独立がどうかが一つのポイントになります.この一次独立性を仮定すれば,古典的なフーリエ解析のテクニックを使うことで,右辺の関数が正となる割合を計算できます.右辺が log x の関数であることが,対数測度 d(log x) で測るのが合理的な理由です.詳細は,こちらはかなり専門的ですが Rubinstein と Sarnak による"Chebyshev's bias" という記事をご覧ください.なお,通常の Lebesgue 測度 dx で測ると極限が存在しないことも証明されています.

【2】π4,1(x)とπ4,3(x) の非対称性,特に99.59%という偏りは,上記の右辺での第1項 1 が主要因ですが,これは mod 4 で,1が平方剰余で3が平方非剰余であることに起源があります.理由を簡単に説明すると次のようになります. χ(カイ)を mod 4 の非自明指標とすると
で,和の順序を交換すれば
Tauber 型定理による Dirichlet 級数と数え上げ関数の対応
を考えると,第1項と対応するのはπ4,1(x)-π4,3(x),第3項と対応するのは o(x1/3) ですが,第2項と対応する関数は
となり,これが右辺第1項になります.mod 3 の場合も同じです.したがって,同様にmod 5 のレースでも,1,4組 vs 2,3組 という平方剰余 vs 平方非剰余というレースにすれば,2,3組 のリードが多くなります.(そして,"1組vs4組"や"2組vs3組"が,もっと微妙なレース展開になります--もっともこれらも,対応するL関数で記述されます.)

つまり,mod 3, mod 4 のレースの非対称性の理由は割と単純です.ただし,実部が1/2の零点は同じ√x/log x のオーダーで寄与するところが精妙です.もし実部が1/2より大きな零点があればそのオーダーは√x/log x より大きくなるので,一般化リーマン予想は,寄与のオーダーが一致することを意味します.

【3】x 以下の素数の個数 π(x) と Li(x) の比較で,数値実験では Li(x) の方が常に少し大きいが実際には大小は無限回変わるという話があります.これも同じで,Riemann予想を仮定すれば
が成り立ちます.そして線形独立性予想のもとで,Li(x)>π(x) となる割合は約99.999973%となります.mod3,4の場合と比べてもずっと極端なのは,零点がそれらのL関数と比べて少なく,また実軸からより離れているからです.

【4】 χを 導手 q の原始的な Dirichlet 指標とするとき, L(s,χ) が 0< Re(s)<1, -T< Im(s)< T 内に持つ零点の個数について
が成り立ちます.(これは留数定理と関数等式を使って比較的簡単に証明できます.)特に,導手が大きい方が零点の個数が多くなります.

【5】Riemann予想については,クレイ数学研究所(CMI)の web site 内の "Riemann Hypothesis"に,Bombieri, Sarnak それぞれによる概説記事や,Riemann の原論文・その英訳などがあります.

【6】Riemannが手計算でいくつか零点を求めたことは確かなようですが,はじめの何個まで,虚部を小数点以下何位まで計算したかは確認できませんでした.リーマンのNachlass(全集)にはそのことも書いてあるそうですが,何かご存知の方は教えてください.
コラム | 17:06:40 | トラックバック(0) | コメント(4)
コメント
面白かったです!
「素数のレース」面白かったです!
また,楽しくて分かりやすい数学の話をブログにのせてください.
楽しみにしています.
2011-05-10 火 14:11:25 | URL | らっち [編集]
らっちさん,コメントどうもありがとう.時間がかかりましたが,何とか完結しました.

びっくり数学島では,ネタも募集しております!こんな話題で書いたら面白いんじゃない?みたいなのがあったら是非お寄せくださいませ.
2011-05-11 水 20:25:19 | URL | 谷口隆 [編集]
最近の分割数
こんにちは。たまたまブログを見つけまして楽しませて頂いてます。
ネタ募集という事で初コメントさせて頂きます。

愛好家の多い分割数の話ですが、ごく最近 Ken Ono さんが新しい結果を出したことでまた話題になってるみたいです。例えば
http://blogs.plos.org/badphysics/2011/01/20/ono/
(Ken Onoさんの論文へのリンクもあります。)

最新の結果は高度なので簡単な説明は難しいと思いますが、谷口さんがどのような記事にされるか興味があります。もしよろしければ解説記事をお願い致します。
2011-10-26 水 22:50:16 | URL | ドク [編集]
なるほど,分割数.
分割数ですか,なるほど...素朴なテーマが深い数学的内容と繋がっていく,ということで,確かにピッタリの話題かも知れません.(確か,「数学ガール」でも扱われていたような.)まだ不勉強で,何かいいものが書けるかさっぱり分からないのですが,ちょっと調べてみます.ちょっと時間がかかると思いますが,気長にお待ちいただければと思います.

楽しんでいただいているとのこと,嬉しいです.面白いアイディアをありがとうございました!今後もどうぞよろしくお願いします.
2011-10-27 木 19:18:50 | URL | 谷口隆 [編集]
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