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谷口隆

Author:谷口隆
数学を題材に綴るというちょっと変なブログですが,楽しんでいただけたらと思います.いろいろな数学を取り上げ文字に起こすことで,『数学とはどんなものか?』ということを,読者の方と一緒に考えていきたいと思っています.本人は,整数論という数学の一分野を研究しています.1977年生まれ.
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連載コラム『数学者的思考回路』
(裳華房ウェブサイト,共著)

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方向ベクトルと法線ベクトルの哲学的(?)考察
以前の連載(点と直線との距離の公式:前編中編後編)で、


の法線ベクトルが

であることを使って、点と直線の距離の公式や、円の接線の方程式が簡単に証明できることを説明しました。題名の「哲学」は冗談ですが、今日は、なぜ法線ベクトルが有効になる場面があるかを、一歩立ち戻って考えてみたいと思います。

●   ●

一言でいえば、方向ベクトルと法線ベクトルは直線を規定する重要な2つの属性で、どちらがより基本的かはその直線による、となります。

そもそも直線ってなんでしょうか?身の回りにある直線から考えてみましょう。まっすぐに敷かれたレールの上を走る電車を想像してください。このときは、レールという直線の方向ベクトルが電車の走る方向です。レーザー光線も、その方向ベクトルは光が進む方向にほかなりません。このような直線では、方向ベクトルが基本になっています。でも、そうでない直線もあります。今度はたとえば、海の彼方に見える水平線を想像してみてください。なぜ水平線は直線になっているのでしょうか?これはその水平線の方向が重要だというよりは、重力の影響を受けて、重力のかかる方向に対して垂直に水が広がってできる線だと考えたほうがよいでしょう。水平線は、重力の方向が法線ベクトルになる直線です。

身の回りにある直線は、だいたいは、方向ベクトルか法線ベクトルによって規定されています。たとえば道路に引いてある白線はたいてい、人や車の進行方向に沿うものか、または停止線のように、進行方向に垂直になっています。重力に垂直な方向に進むと重力の影響を受けないので、ボールや丸太は水平にコロコロ転がります。逆に木や電柱は、傾かずに重力の方向に直立することで、重力をバランスよく受け止めることができます。

ここまで考えると、点と直線の距離の公式や円の接線の方程式で、法線ベクトルが有効な理由がはっきりするのではないでしょうか。これらの問題では、直線の方向ベクトルよりも法線ベクトルの方が基本的だからです。高校の数学では、直線を、「傾き」すなわち方向ベクトルによって取り扱う方法に重点がおかれています。まずひとつの方に集中して定着を図るというなら、教え方としてはもちろんひとつのありうる考え方です。しかし、本来これはどちらか一方でよいというものではなく、問題によってどちらがより基本的かを考えることが(たとえば大学の数学や物理でも)大切です。

両方のベクトルと関係する直線もあります。たとえばノートの横罫線を考えてみると、その罫線に沿って左から右に字を書いていきますが(罫線の方向ベクトル)、全体としては上から下に書いていきます(罫線の法線ベクトル)。そもそも道も、通る人には方向ベクトルですが、渡る人は法線ベクトルに進みますよね。身の回りにある直線に少し思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。


コラム | 08:34:49 | トラックバック(0) | コメント(0)
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